＜高校時代＞

野球に明け暮れ、文化祭の準備に燃えたころ
恋愛への憧れも沸々とわき上がってきた

2005.2.23記

8.女子高巡り
文化祭の副実行委員長だったので、この年は全てが文化祭につながっていた。4月、5月からプログラム用の広告取り。毎年広告を出して貰っている企業に挨拶に行き、広告を貰うのだ。授業を抜けて。「公欠」扱いではるが、自分としては授業料を親に払って貰ってるのに、授業を受けないことが後ろめたい思いだった。
5月に文化祭を開く女子高があった。実行委員は「参考のために」と称して日曜日のたびに出かけた。どんな雰囲気かな、プログラムはどんなかな、模擬店はどんなかな・・・もちろん真面目な研究心もあったが、ホンネは女子高へ行くというだけで嬉しかった。なにしろ高校へ行ってから女子と話する機会がないんだから。男子が女子を誘うことを「ナンパする」と言うが、ようは文化祭の見学というのは大義名分で「ナンパしに行く」わけである。
覚えているところでは「三輪田学園」「普連土学園」「跡見学園」「都立八潮（共学）」などだ。
戦果は・・・全くなし。野球部にいたくらいだから、硬派というほどではないにしろ、女子に話かけるなんてとうてい出来なかった。唯一、都立八潮高校で女子と知り合ったが、名前は聞いたものの電話番号も聞き出せず、それっきり（携帯電話があればなぁ）。それでも未練たらしく我が校の文化祭のポスタ−を八潮高校へ送ったっけ。3年間、よくもまあ女子と縁のない生活が続いたもの。やっぱり淋しいよね。　2007.6.12記

　

7.野球部一筋の青春、とはいかなかったけれど（4）
今まさに各地で高校野球の県大会真っ盛りである。高校野球をやる為に高校へ進んだ、と私は思っているほど好きだった。高校での野球歴を書いておこう。
1年生として入部した時、3年生が3人（他にマネ−ジャ−1人）、2年生が9人、つまり上級生は12人だった。同期は出入りが続いたものの1年生が終わる頃は結局4人になってしまった。
1年の夏の大会、1回戦で春季東部地区優勝校の「春日部工業」に2対3で破れた。3年生は試合後、泣いていた。私はそんな姿を見てちょっとだけ涙を流した。さて、8月から新チ−ムだ。2年生は9人いるからレギュラ−は揃っている。同期のＮは1年生ながら主砲で4番、逆に2年生が1人だけ補欠に回る。こんな陣容で秋からの大会を迎えた。私はショ−トの補欠で正選手は主将の加藤先輩だった。キャッチボ−ルも常に一緒でかわいがって貰っていた。レギュラ−ではないが、相手は主将だから納得できる。もう1年の辛抱だ、という気持ちだった。秋の大会もせいぜい一つ勝つのがやっと、ようやく自分のチ−ムのレベルがわかってきた。数年前には県（５６チ−ム）でベスト16まではよく進んでいたとは聴かされていたが・・・。日曜の練習試合は同レベルの相手と試合をするので勝ったり負けたりだが。
2年の春、新1年生が10人位はいってきた。さして大きくない私から見ても3人を除いて頼りない1年生だった。それでも10人がず-っと続いてくれればいいのだけれど。一年前に受けた発声練習やランニングをさせると面白いことがわかった。いや、面白くない事態なのだが。つまり、こういうこと。29年生まれの自分たちは先輩の言葉には盲目的に服従したし、当たり前だとさえ思った。ところが30年生まれの連中は「何故、1年生だけやるんですか？」とのたまった。いやいやまいった。こんなことに理屈もへったくれもないぜ。それが野球部だ。嫌なら出て行け、ってなもんだ。とりあえず1年生の体力の無さを証明してやろうじゃないかと、毎日日替わりで2年生がランニングに付き合った。付き合うだけでも有り難いと思えよ。去年までの上級生は走らずに号令だけだったんだから。こうして納得させれば1年生もしぶしぶながら動いた。
さて、二度目の夏の予選、この大会も私は出場機会はないので意外にも冷めていた。大宮球場の開会式でユニフォ−ムを着て入場行進をした際の写真が残っている。地元の埼玉新聞には各校の紹介や主将のコメントが載っていた。
西部地区の雄、立教高校の主将は「深谷商の竹内を打ち砕いて、念願の甲子園へ」という威勢のいい言葉が載っている。埼玉を4つの地区に分けたうち、西部地区での常勝チ−ムで県で毎度ベスト4まで進んでいるから当然といえば当然の言葉だ（竹内を擁する深谷商はその夏甲子園に行き、竹内はドラフトで1位指名で大洋入りした逸材）。それに引き替え、うちの加藤主将の言葉「多くは望めない。3回戦まで進みたい」となんとも控えめというか、正直な言葉だった。結果はやはり1回戦で敗れた。私はサバサバしていた。内心、いよいよ俺達の時代だと思った。1週間ほど休んでから（このへんからして甘いよな）新チ−ムの練習が始まった。同期のＮはエ−スで4番、私はショ−ト、副将で3番でスタ−トした。9月の新人戦、西部地区大会で1回戦コ−ルド勝ち、おいおいやるじゃん。続く2回戦も勝った。西部地区でベスト４だ。県に直せばベスト16だぜ、これは久しぶりの快挙だ。西部地区準決勝の相手は狭山工業、監督は「今日が事実上の決勝だ、頑張れ！」と持ち上げた。カ−ブの多いピッチャ−で私は三振ばかり、チ−ムも毎回1失点を重ね7回で7対0でコ−ルド負けしてしまった。それでも二つ勝ったことで大きな自信となった。しかし、この時期から私と監督は意見が合わなくなってきていた。そもそも新チ−ム結成時に前主将の加藤先輩の進言で私は副将・3番となったのだが、監督は1年生主体のチ−ムを作り「2年後に上位進出」を狙っていた。コ−ルド負けを機に同期でセカンドのＴ・Ｎはセンタ−へ、私はファ−ストへ回された。Ｔ・Ｎが外野の要、私が内野の要として若い１年生をまとめろ、との意向だった。エ−スで4番の同期Ｎは不動だが、Ｔ・Ｎも私も穏やかじゃない。もう一人同期のＵと三人で相談して「三人一緒に辞めよう。そうすれば監督も目を覚ましてくれるだろう」との目論見だった。
結果は「退部届」を出したのは私だけ。慰留もなかった。
「退部届」を出したことに悔いはない。それでも、帰りの電車で涙が出てきてしまった。野球やりたくて高校へ行ったのに、監督と気が合わずに辞めてしまうことが悔しかった。
以後、甲子園の開会式の入場行進を見ると涙が出てくるようになった。もう行きたくても行けない場所になってしまった。
もし、もう一度高校時代を過ごせるものなら、もう一度野球部で過ごしてみたい。　　2005.8.2記

　

6.野球部一筋の青春、とはいかなかったけれど（3）
高校2年、まだ野球部だった頃、「落研」に入部した。え、「落第研究会？」違いますよ「落語研究会！」。昔から落語は好きだったが、演じるほうには興味はなかった。ところが高一の秋の文化祭で「落研」の高座を見て感心してしまった。3年生は上手い！　なかでもＭ先輩（今はテレビ局のアナウンサ−）は特に上手かった。ところがその先輩は「水泳部」と掛け持ちなのである。それじゃ、俺も、というわけで高校2年の秋に入部してしまった。もっとも文化祭が近づくまで活動があるわけでもなく、間際に二つくらい覚えればいいのである。はっきり言って、私は下手だった。滑舌が悪い上に、早口だったから。円鏡で聞いた「堀の内」と柳朝で聞いた「粗忽の釘」を覚えた。どちらも粗忽者の話だ。文化祭が近づくと不安だった。国語の授業の時に先生に頼んでみた。「先生、文化祭で落語やるんですけど、自信ないんです。この時間使って練習させて貰えませんか」と。附属高校なもんで、クラスメ−トも、授業が潰れることは大歓迎、「おう、嶋田、やってみろ、やってみろ」と応援してくれた。かくして国語の授業は中止して、私は教壇にちょこなんと座り一席演ったわけである。いやあ、やっぱり下手だったけど、これで「文化祭には大丈夫！」という気にはなれた。運動部と掛け持ちが許される学校、授業を潰して練習させてくれた学校、そんな学校で私は3年間を過ごした。
2005.7.7記

　

5.始めてのアルバイト
当今、アルバイトを捜すとなるとフリ−ペ−パ−がたくさん出ているが、当時は1部50円で「アルバイトニュ−ス（学生援護会）」買って捜したものだ。アルバイトといっても「長期希望」の募集が多かった。私の初アルバイトは高校3年の冬休み、ちょうど2週間だった。応募したのは、すでに人気が翳り気味の「ボ−リング場のフロント係」だった。時給250円、午後3時〜11時までの8時間だった。場所は浅草の東宝ボウル、家から歩いて20分だ。同時に高校生が4人採用された。大学生はいなかった。主な仕事は順番待ちのお客さんをマイクで呼んだり、靴の貸し出し、機械トラブルの苦情処理などだ。金銭授受は任されなかった。この仕事で面白かったのは、マイクでいろいろ喋ることだ。いくつか思い出してみよう。
・ボ−リングのピンが出ないという苦情には
「業務連絡、業務連絡、　メカニック！　18番レ−ン調整お願いします」
・ゲ−ム機械の故障の苦情には
「業務連絡、セガの○○さん、４階ゲ−ムコ−ナ−のピンボ−ル見てください」
・一番楽しかったのは、ボ−リング場主催のゲ−ムの参加者募集などだ。
「本日は当東宝ボウルご来場頂きまして、誠にありがとうございます。本日１０時よりスタ−ト致します『クリスマスファミリ−大会』のご案内をさせて頂きます。この大会は親子ペアお二人でご参加頂き、全員にもれなく豪華賞品を用意しております。まだ若干の余裕がございますのでお近くのフロントまでお気軽にお申し込みください。本日は当東宝ボウルをご利用頂きありがとうございました」こんな感じだったかな。もちろん台本などないので、好き勝手に喋っても構わなかった。このアルバイトのおかげでマイク握るのが好きになったのかも・・・。
さて、2週間たって、給料は28000円。冬のコ−ト2枚と、母に傘を1本買ってあげて、綺麗に使ってしまった。　　2005.6.25記

　

4.『これが青春だ』
ちょっと時間的には先に進むが、高校最後の文化祭、これが私にとっての輝かしい青春の１ペ−ジでしょう。
野球部を辞めることになった理由はいずれ書くとして、とにかく高校２年の秋に私は野球部を辞めてしまった。野球をやるために高校へ行ったのに・・・とにかく辞めてしまった。すると当然時間が余る。毎日、毎日やることがない。なにしろ勉強は適当にやっていれば落第さえしなければ、大学付属なので気が楽。何かやることないかな〜と思っていたところへ、文化祭の実行委員長募集のポスタ−が目にはいった。「なになに、委員長と副委員長がペアで立候補か？　やってみたいけど、俺は全く文化祭に関わったことないからな」と諦めかけていた時に落研仲間のＳが（やはり何か、燃焼することを捜していたようだ）声を掛けてきた。
Ｓは学内でも有名だったので（私より落語が上手かった）、Ｓが委員長、私が副委員長で立候補した。講堂での演説は震えたなあ。なにしろ、文化祭をどうこうします、というビジョンが無いんだから。Ｓはどんなアピ−ルをしたか覚えてないが、とにかくＳの知名度のおかげで、対立候補を破って当選した。文化祭までまだ一年近くある。私は、それから派手な祭にしようと知恵を絞った。そういえば都立の大泉高校というところで、体育祭に派手なハリボテの人形を作っているという噂を思い出した。私は「ハリボテ人形」に賭けた。文化祭を野球に代わる私の青春にするために。
4月になって早速、都立大泉高校を一人で訪ねた。アポなんかない。いきなり行って、「体育祭の実行委員に会いたい」と伝えた。委員長と会うことができ、大きなハリボテの写真や作り方をざっと教えて貰った。あとは、何の像を作るかだ。この年、昭和47年、私には忘れられないニュ−スがある。日中国交回復を受けてパンダが2頭贈られてきたことである。「これだ！　ハリボテはこれだ！」さあ、テ−マは決まった。私の夏休みはひたすら「パンダ作り」に没頭した。大きさを想像して、角材の建て方、配置、使用する本数、材料費などを考えた。
9月になると、早速高校近くの材木屋さんで3寸角で長さ4.5ｍの角材を買った。上から見ると太い十字の様な形に柱を配置し（12本）、横木にホゾを作ってはめ込んでいった。当初、材木屋さんでホゾをあけて貰おうと思ったが「学生さん、機械使っていいから、自分でやりなよ」となった。私は木工は苦手だったので、とても不安だった。夜の９時くらいまで作業場を数日お借りした。文化部の部室前で角材を組み上げた段階で、正門近くへ移動した。出来上がった後では、動かせないし、人目につくことで文化祭のム−ドも盛り上げる効果を期待したのだ。移動するまでは一人も協力者はいなかったが、正門近くへ鎮座してからは協力者が現れた。竹を細く割って、角材を囲むように丸くして、針金で留める。この段階でも一般の学生には最終的な姿は想像できない。竹でほぼ形状を作ったあとは、新聞紙をベタベタと貼っていった、何重にも何重にも重ねて貼った。この時期に雨が降らなかったことは幸いだった。ここまでくると、何かの動物だろうと想像できる。いよいよペンキで仕上げだ。色は簡単、白と黒だけだ。4.5ｍというとほぼ2階建ての家の高さである。像の内部も2階建ての構造で、中にハシゴを作ったので、4.5ｍの位置に立つことができる。パンダの頭の上に立つように見える。文化祭は１１月の第1週の土・日、2日間で5000人程入場する。大勢の人が「パンダ」の前で記念撮影をしていた。そんな光景が嬉しかった。そしてあっと言う間に文化祭は終わり、入場者も帰ったあと、すでに夕闇迫るなか、実行委員20人程で「パンダ」の上に一人づつ立っては感動のコメントを発した。いつしか実行委員は全員泣き崩れた。　やることをやった後の充足感でいっぱいだった。最高潮に達した時、真横の職員室のガラス窓がいくつも一斉に開かれた。それまで見守っていた先生方が無言で拍手を送ってくれた。男泣きは一層高く響き渡った。

数日して、校門近くにいつまでもパンダを置いてはいられないので、どう処分しようか考えていた頃、先生に呼び出された。
「近くの遊園地が買いたいと言って来たが、どうする？」
「壊すのも燃やすのも忍びがたいので、そうして頂ければありがたいです」
材料費は50000円かかったが、30000円で売れた。翌日にはクレ−ン車が来て、パンダを荷台に積む作業を始めた。大勢の人の手で積み込むなら大丈夫だろうが、クレ−ンで吊り上げたら絶対に壊れるだろうと思った。なにしろ素人が作ったのだから。ところが、吊り上げられ、斜めに仰向けの状態で積まれたが無事だった。それから一年ほど、「朝霞テック」という遊園地の入場ゲ−ト脇に飾られていて、一度だけ見に行ったことがある。　その後の運命は知る由もない。　　2005.6.25記

高さ4.5ｍのハリボテの「パンダ」

自分自身が記念写真を忘れていた。
（卒業アルバムから）

　

3.野球部一筋の青春、とはいかなかったけれど（2）
・挨拶
野球部というのは数ある運動部の中でも一番封建的である。上下関係が厳しい。これが私にとっては全く苦にならない。当然のことというか、通過儀礼のようなものと思っている。1年生だから先にグランドへ来て整備するとか、最後まで後片付けするとか、冷静に考えると理不尽かもしれないが、私は運動部とはそういうものだと思っている。1年生は上級者から教えて貰っている、という感謝の気持ちがあらばこそ上達していくものだと思う。
さて、上下関係だが、校外で上級生に会ったら挨拶するのは当然だが、帽子をとって大きな声で「ちわっ！」と言う。これが私には快感だ。電車内で先輩を見つけたら近寄って「ちわっ！」、ホ−ムで会ったら「ちわっ！」。上級生も野球部以外の仲間といる時に下級生から挨拶されると意外に照れるのである。「そんな大きな声で挨拶しなくていいよ」と言わんばかりだ。しかし、先輩を立てるには、こうした従順な後輩を持っていることを周囲に知らしめることが何よりなのだ。私はけっこう先輩の相手が得意かもしれない。
・坊主頭
野球部といえば頭は「坊主」と相場が決まっている。しかし私の学校はそうでもなかった。「坊主でもいいし、スポ−ツ刈りでもいいよ」とのことだった。ちょっと拍子抜けした。実は私の頭の形は坊主が似合わない。スポ−ツ刈りでさえ、やたら人相が悪くなる（ほんと、伸ばしてるとそんなに人相悪くないんだけどね）。それでも野球に没頭するために坊主にしたかったのだが・・・他の1年生もスポ−ツ刈りなら、俺もスポ−ツ刈りでいいや。軟弱！　2005.4.23記

　

2.野球部一筋の青春、とはいかなかったけれど（1）
入学して３日目、野球場を訪れ野球部に入部した。3日目だから一番乗りかと思ったら、すでにユニフォ−ム姿ですっかり溶け込んでいる奴がいた。彼は寮に住んでいたので春休み中から参加していたようだ（因みに、全校で800人弱の学生のうち、約100人が寮住まいだった）。
野球部はあまり強くない。春の県大会、夏の選手権予選、西部地区新人戦、秋の県大会と公式戦が4つあったが、だいたい一つか二つ勝つのがやっとだった。かつては強い時期もあったらしい。それでも県でベスト８くらいが最高だったようだ。
4月も終わる頃、新入部員は7〜8名、2年が8名、3年が4名、総勢で20名だ。練習はきつかったが、特に印象に残っていることをいくつか書いておこう。
・腹減って倒れそう
5月の日曜日、もちろん練習がある。開始は13時、1年生は2時間前から準備があるので11時集合。準備は打撃練習用のネット立て2基（毎日穴を掘って立てる）、内野の整備（いわゆるトンボを使った整備）、白線引き等だ。私は通学に1時間30分要するから家を出るのは9時頃。逆算すると朝食は8時だ。初めてのことで考えもしなかったが、練習開始の頃には空腹だった。夕方5時まで1年生はとにかく声を出し続ける。広い練習場に声が響いていないとシラケるのだ。ヒザに手をあてて休むのも怒られる。水を飲んでもいけない。空腹がこんなに体力的に辛いこととは知らなかった。17時の練習終了と同時に私はグラウンドに寝た。2年生には怒られたことは言うまでもない。まだ3年生がグランドにいるのになんてザマだ。1年生はこの後もランニング練習があるのだった。5分程度だったが、横になったら楽になった。以後、日曜日の練習には昼の弁当を持参して着替えのあとに食べることにした。
・練習後の練習
通常の練習は15時30分から18時まで（だったと思う）。3年生が帰ったあと、1年生は2年生から特訓を受ける。ホ−ムベ−スとセンタ−、レフトを三角形に回って約250ｍをランニングするのだ。センタ−、レフトはラグビ−部と共用でラグビ−のポ−ルが立っていた。つまりホ−ムベ−スをスタ−トしてポ−ルの外側を回る三角形のコ−スだ。ポ−ルが無ければ、だんだんと内側を回って戻ってもばれないのだが、ポ−ルがあるから距離が誤魔化せない。さあ、この一周を1分くらいでランニングする、楽勝だ。5周くらい平気だ。そこで10周目あたりで2年生から声が掛かる、「よし、1年生40秒で戻ったら、上がり（終わり）！」、ここで体力のある奴は、なんとか走って終わり。短距離の苦手な私はペ−スを守って1分かけてゴ−ル。「15秒休憩、つぎ、45秒で、上がり」、う〜ん、まだきつい。私はまたスロ−ペ−スで回る。「15秒休憩、つぎ、50秒で、上がり」の声。待ってましたとばかりに1年生は温存した体力をフルに使って走る。ようし、これで上がりの筈だ。ところが「まだ元気あんじゃねえか。よし、今度は俺より速い奴は上がり！」。そりゃあないよ、2年生はず-っとベンチに座って時計見てただけで、元気なんだもの。
こうしてランニングは騙され騙され延々と続くのである。約50秒走って、ビリがゴ−ルしてから15秒休んでまた走る。高校生って元気だったんだなあ。
・発声練習
野球の練習というのは結構静かである。広いグランドに散っているから、終始誰かが声を出していないとしらけた感じがする。ず-っと声を出して盛り上げるのは一年生の仕事である。その為の発声練習、私は結構好きだった。
練習後、3年がグランドを去った後、2年の指導で行う。2年生はホ−ムベ−ス付近のベンチに座っている。1年生はその前で正座しながら順番を待つのである。一年生は一人づつ、センタ−のラグビ−ポ−ル付近まで言って大声を出し続けるのである。
「さぁ〜行こうぜ行こうぜ、バッチ打ってけ打ってけ、どうしたおりゃあ行こうぜおらあ・・・」とにかく意味不明でもいいから2分くらい大声で叫ぶ。ベンチまでよく聞こえると「ようし、戻ってこい」となるのだが、声が小さかったり途絶えたりすると「聞こえねぇぞ、やり直し！」となる。毎夕、こんな練習が続くのでグランドの外の道を女性の笑い声が聞こえることもある。「また、いつものやってるわ・・」と。　　　2005.4.20記


1.通学に1時間半
都営地下鉄（本所吾妻橋-浅草橋）、国鉄総武線（浅草橋-お茶の水）、営団丸の内線（お茶の水-池袋）、東武東上線（池袋-志木）の4つの路線を乗り継いで通った。地下、地上、地下、地上といくら若くても階段はきつい。浅草橋の乗り換えだけで170段はあった。往復で3時間、一日24時間の8分の1だ。時間が勿体ないとも思うが、仕方がない。もっと遠くから通う奴もいた。
お茶の水を経由するので慣れた経路でもあった。時間のある時は帰路のお茶の水から駿河台へ歩き回ることもあった。「書泉ブックマ−ト」「三省堂書店」などで文庫本を漁る楽しみも知っていた。「カレ−の南海」へ寄る時なんぞは、高校生のくせにいっぱしに常連ぶっていた。
電車で大きな忘れ物をしたことがある。野球の練習着一式詰めた大きなカバンを網棚へ載せて忘れてしまったのだ。あんな汚れ物、誰が使うわけでもないのに、とうとう見つからず仕舞いだった。以後、今日に至るまで網棚には一切荷物を置いたことがない。
学校の最寄り駅である「志木」は当時は木造でいかにも田舎の駅という佇まいだった。住所だって「志木市」ではなく「北足立郡」だったのだ。野球の練習で暗くなってからの帰り道、薄暗い中に志木駅の駅頭がぼんやり見えて妙に哀愁があった。腹が減った時は「養新軒（？）」というラ−メン屋で『もやしそば』を食べるか、林屋本店というパン屋で菓子パンを一つ頬張って帰った。正門近くに出来た「レストラン川島」、誰かが「あそこのハンバ−グは雑巾みたいな味だ」って言ったっけ。みんなで「おい、雑巾食ったことあんのかよ」と笑ったなぁ。

　


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