第105回
平成22年3月12日（金）　18時30分開演
「三遊亭遊雀勉強会・弥生会」お江戸日本橋亭
入場料　2200円

あらら、今年にはいって初めての「落語案内」だ。（いくつかの独演会には行ったが、書き残すほどのものではなかったので）
フラのある噺家・遊雀、このお江戸日本橋亭で毎月独演会を行っている。
会場にはいってすぐに席数を数えたら80席だった。普段は100席まで用意出来るのに・・・ということは、予約の段階で100枚売れてなかったようだ。
会場の前半分が座イスで窮屈なところだが、今回はゆったりと座れた。

ご挨拶

三遊亭　遊　雀

落語ではなく「ご挨拶」とプログラムにも書いてある。
座布団に座って、いわゆる「マクラ」を喋ってた。
終わったばかりのバンクーバーオリンピックの話題が多かったが、こういう時間を割くのなら、いっそのこと3席口演してくれたほうが有難いけど。

講談

「佐野山」

神田きらり

十両の佐野山、病弱な親の薬代に困り、自分の食いぶちすら減らすありさま。いよいよ引退かと世間の噂にのぼる。それを聞いた谷風は「親孝行が廃業するのを見ていては相撲道に恥だ」と、興業元に千秋楽で佐野山との取り組みを願う。
江戸っ子は強い横綱と十両の弱い佐野山との取り組みをいぶかしんだが、判官贔屓で佐野山に応援をして、「まわしを掴んだら5両、もろざしになったら10両、勝ったら50両の祝儀をあげると」、大いに盛り上がる。
いよいよ千秋楽、体力のない佐野山を抱えるように捕まえて、後ずさりする谷風。最後は押し出すが、わざと「勇み足」で負ける。
名横綱・谷風が生涯に一度だけ八百長をしたという美談。

落語

「崇徳院」

三遊亭　遊　雀

落語
「唐茄子屋政談」

三遊亭　遊　雀

道楽者の若旦那、ついに勘当されて路頭に迷い身投げを図る。通りかかった叔父が、死ぬ気で働くなら協力しようと唐茄子売りを勧める。天秤棒など担いだことのない元若旦那、重さと暑さで売れないまま倒れこむ。往来の人に助けられ唐茄子まで売りさばいてもらう。殆ど売りつくしたころ、弁当を広げようとある長屋の軒先を借りると、貧しい母子に出会ってしまう。お弁当も子どもにあげ、売上金もその母に与えてしまう。帰ってきた若旦那に、叔父さんは売上を見せろと言う。若旦那は子細を話して、その長屋まで案内する。すると長屋の様子がおかしい。先の母親は恵んでもらったお金を大家に溜まった店賃にとられてしまい、自殺を図ったという。若旦那、長屋の大家に怒鳴り込み、殴ってしまう。長屋の連中も拍手喝采の大騒ぎ。これが奉行の耳に入ることになり、人情なしの大家はお叱りを受け、唐茄子屋は人助けしたと褒美をもらい、のちに勘当も許される。情けは人の為ならず、廻り回って我が身のため、というおめでたい一席。

きらり：神田松鯉の弟子。28歳までバスガイドで鍛えた美声は魅力だ。顔もまあまあ、体型は関取並み（笑）。入門して8年にしては上手い。歯切れのいい講談は気持ちいい。
遊雀 ：すっかりこの名前にも慣れてきた。（以前は権太楼門下で三太楼）
オーバーアクションも独特だ。ちょっとやり過ぎ？
「佐野山」：実話のようで、落語にもなっている。因みに「佐野山」は今も続く名跡で、現・佐野山親方は昨年引退した大関・千代大海である。
「崇徳院」：私の大好きな話。大旦那に頼まれてお嬢さんを探し歩く頭の苦心をもう少ししつこく演じて貰いたかったが・・・合格点でしょう。
「唐茄子屋政談」：実は、この話には以前から違和感を感じていた。道楽が過ぎて勘当された若旦那、その後も改心した様子がないのだ。唐茄子を売るにも他人の世話で売り捌いてもらっただけ、売り声の稽古をする時も吉原のことを思い出してばかり、貧乏長屋の貧しい親子に売上金を全額あげるのは、おかしいだろう。身投げ寸前で助けてくれた叔父さんに唐茄子を売り歩けと言われて「私が？　いやだあ、みっともない」と言って、怒気を買う。その後になじられて、改心の言葉を吐く。この言葉を遊雀は省いてしまった。
となると、その後の展開にも若旦那を応援する気になれないのだ。
有名な人情噺だが、いまいち心が晴れない高座だった。
そうそう、貧乏長屋の小さい子に「おまんま食べたいよ〜」と言わせてはいけない。貧しくとも武士の子である。襖の陰から羨ましそうに見ているだけの演出のほうがいいと思う。

第106回
平成22年4月15日（木）18：30開演
「古今亭志ん輔の会」国立演芸場
木戸銭3000円

志ん輔の国立での独演会、毎回3席だったが今回から2席にすると告知があった。3席演じると流石に3席目には疲れが出るらしく、トリネタに全力を尽くすことが難しくなったからだ、という。毎度ネタおろしもするとかなり大変なことなのでしょう。

開口一番
「犬の目」
春雨や　雷　太

落語

「お若伊之助」
古今亭　志　ん　輔

手品

伊藤夢葉

落語
「大工調べ」

古今亭　志　ん　輔

春雨や　雷　太：前座と思うがいい声をしているので楽しみだ。
柳亭　小　痴　楽：この名前を聞いて懐かしく思う。綴り方教室で一世を風靡した痴楽、その弟子が「お客さんが笑ってくれると、こっちが楽になるので、これが本当のこっち楽」というフレーズで売った小痴楽。現・小痴楽は小柄でまじめな感じ。今風に言うと「普通に上手い」
「浮世床」この話、字を読めない男が軍記物を読むバージョンと二つある。あるいは時間が取れれば繋げて演じるのかもしれない。オチとしては、今回のバージョンが秀逸だ。
「大工調べ」師匠の志ん朝も得意にしていた大ネタ。聞かせどころは政五郎が大家に啖呵をきる場面。残念ながら今日の志ん輔、イマイチだった。昨秋の「遊雀」のほうが格段によかった。

今回から2席にします、とかチラシと違った演目を高座にかけるお詫びやらで調子悪かったみたい。
「お若伊之助」の冒頭に「チラシでは『七段目』となっていましたが、都合で変更いたします。覚えていない訳じゃないんですよ。ちょっと早回し＆コマ送りバージョンでやってみましょうか」とサラッと話してしまった。これが、今日で一番笑えた。
早回し＆コマ送りで、などというセンスがただものじゃないな、やっぱり。

第107回
平成22年6月26日（土）14：00開演
「銀座・文祥堂落語会」文祥堂ホール
木戸銭2000円

銀座をぶらぶらしていたら、落語会の幟が揺れていた。チラシも貼られていて、見ると「柳朝・菊六各二席」とある。13時からランチを予約していたので開演時間（14時）には間に合わないが、各一席づつは聞けるだろう、とチケットを購入した。
13時予約のランチを女房と食べて、急いで戻ると、中入り直前だった。途中入場は遠慮して、中入り後の各一席を楽しんだ。

落語

「あくび指南」

古今亭　菊　六

落語

「鮑のし」

春風亭　柳　朝

古今亭　菊六：これで3回目だろうか。「菊六」の名前を見つけたので、一席しか聞けないと知りつつチケットを買ったくらいだ。二つ目だと思うが、上手い。声もいいしねえ。連日ほうぼうの独演会にも助演していてネタも多そう。二つ目ではこの菊六がイチオシだ。
冒頭、目の前の席が空いていたようで、中入りの間に客が帰ったのか、トイレから戻らないのか、そのへんを笑わせながら繋いでいた。戻ってきた客をちょっといじった。余裕がある証拠だろう。
春風亭　柳朝：一朝の弟子だが、その師匠である「柳朝」を2年前に襲名した。いかに期待されているかがわかる。今回で2回目だが、まあまあ「普通に上手い」というところか。ちょっと童顔なのが勿体ないかな。
「あくび指南」夏に相応しい噺だ。「あくび」の場面は以前聞いた喜多八が絶品だった。古今亭にしては上品な旦那（稽古にでてくる旦那）に仕上がっていた。こういうのもありか、と納得してしまった。
「鮑のし」だらしない亭主としっかり者の女房、ありえない夫婦がいるから落語は面白い。だらしない甚兵衛をどのくらいだらしない亭主で演じるかは、演者の自由だ。柳朝は与太郎的な人物に演じていて笑えた。

第108回
平成22年8月15日（日）　13時30分開演
「三遊亭遊雀勉強会・葉月会」お江戸日本橋亭
入場料　2200円（前売り予約）

8月のこの時期、11日〜20日まで上野・鈴本では恒例のさん喬・権太楼共演による夜席が開かれているのだが、ついに一度も行けそうにない。そこで、と言っては失礼だが、この15日の昼間だけ時間が空いてたので出かけてみた。

いい席で座ろうと開場の13時より20分早く会場に到着。
暑い中（35度を越えた）開場前に50人ほど並んでいた。
出演は遊雀2席とゲストは橘ノ圓満（この人、ちょっとエピソードの持ち主のようで）。
毎度思うのだが「ご挨拶」をやめて、三席務めて貰いたいが・・・そう思うのは私だけ？
たしかに、挨拶という名の長〜いマクラも面白いのだが。

ご挨拶

三遊亭　遊　雀

テレビドラマに出るらしい。政党の幹事長の役で。
収録が17日（火）なのに・・・まだ台本が届いてないらしい（笑）
放送はＴＢＳ系列だが、関東では放送されないらしい（笑）

こんなバカっ話で笑わせてくれました。

落語

「ほうじの茶」

橘ノ圓満

若旦那が料亭で幇間の一八を呼んだ。一八は面白いお茶を持参した。焙じるだけで、声色が出来るという。このお茶を買ってくれるなら、といくつか試してみせる。懐かしい噺家の声色を見せる。（志ん生、文治、三平などを演じてみせた）
若旦那も早速焙じてみたら、なんと死んだ親父が現れた。
一八「若旦那、それは焙じ（法事）が足りません」

落語

「天災」

三遊亭　遊　雀

落語
「酢豆腐」

三遊亭　遊　雀

町内の若い衆が集まって酒を飲もうとしている。酒はなんとか二升揃えたが、銭がなくて肴が揃わない。昨日の豆腐なら一丁残っていた筈と捜すが、なんと竈の中に置いてあったのですっかり腐っていた。
そこへ、キザで嫌われ者の伊勢屋の若旦那が通りかかる。いたずらを思いつく。「お〜い、若旦那、知り合いから貰ったものですが、食べ方が判らないんです、教えて下さいな」。新しいもの、高級なものなら何でも知ってると嘘ぶいた若旦那が食べることに。一口食べて、目を剥いて苦しむ。
「どんな味なんです？」「う〜ん、これは酢豆腐だ、あ〜美味い」「もう一口どうです」「いや酢豆腐は一口に限る」

圓満：見るからに円満そうな体型。いつも前後に登場する噺家の「圓満評」を総合すると・・・どうも彼は落語好きの旦那だったらしい。好きが高じて入門したのか、身を持ち崩して入門したのか、そのへんが定かではないが・・・
かつて旦那時代に遊雀がインタビューに来たらしい（当時は三太楼）。三代目・金馬の「居酒屋」の口上（え〜出来ますものは・・・）を知らない三太楼に、この人が教えたとか。
噺のなかの声色は、若い時から寄席通いをしていたという証だ。ただし、若い人には判らないかもね。
遊雀 ：すっかりこの名前にも慣れてきた。（以前は権太楼門下で三太楼）
「天災」では大きなトチリをしたが、それを大きな笑いに変えた。余裕のなせる業か。但し、その点は、かつての師匠・権太楼のもっとも嫌うことだが。
それに「天災」にはもっとくすぐりがあったと思うのだが短くまとめてた。
いずれにしろ、 二席のうち、トリには大ネタを演じて欲しいなあ。今日はどちらも、トリネタではないと思う。これじゃ、ちょっと高いよ。

第109回
平成22年8月19日（木）　18時30分開演
「芳澤寄席」市川市・芳澤ガーデンギャラリー
入場料　1300円

市川文化会館での落語会は何度か行ったことがあるが、この「芳澤ガーデンギャラリー」では初めてだ。市の文化施設・・・ということは知っているが、どんな施設かも知らない。一度だけ前を通って庭の広いところだな、と感じた程度だった。

いざ行くとなると不便なところだ。。
京成線の最寄駅「市川真間駅」から徒歩12分もある。
翌朝のことを考えて、自宅へ早めに帰り、車を置いてから歩いて出かけた。この日から涼しくなったものの徒歩20分はちょっと遠かった。ずーっと下りでよかった。
入場者はごくごくご近所の人ばかりなんだろうか。（入場者は60人ほどだった。）
さてギャラリーのホールは天井の高い、8ｍ四方くらいの真四角な空間で、およそ落語には不向きなホールだった。イスがちっちゃくて、尻が痛くなるのは必至、音も反響しそうで演者も口演しづらいのではないだろうか。

紙切り

林家　二　楽

客のリクエストに答えていくつか切った。
「東京スカイツリー」をリクエストした人がいた。（私が欲しいヨ〜）
紙切りの嬉しいのは、お土産を貰えるからだ。リクエストした人はちゃんとファイルに入れてもらって、破ることなく持って帰れる。
切りながらの喋りもかなり笑わせてくれましたが、ほぼ現・三代目正楽と同じような感じ。（同じネタが半分以上）
18：30〜18：45

落語

「ちりとてちん」

桂　小南治

隠居が碁の仲間を呼ぼうとしたが皆都合が悪く準備した料理が残ってしまった。人のいい竹さんを呼んで食べてもらうことにした。何でも喜んで食べるのはお世辞とわかっても嬉しい。そこへ女中が豆腐を出そうとすると古くて腐っていた。旦那は悪戯を思いつく。何をあげてもケチをつける熊さんを呼んだ。例によって料理にいちいちケチをつけて愛想なく食べる。
「熊さん、おまえさんは口が肥えてるから知ってるだろう。台湾の名産を貰ったんだが、私はこの臭いがダメでねぇ。『ちりとてちん』というらしいが、食べておくれ」
「その臭いがいいんですよ。（無理して食べてみる）」
「熊さん、どんな味だい？」
「豆腐が腐ったような味です」
18：45〜19：15

紙切りのコラボ

林家　二　楽
　　　 ＋
桂　小南治

二楽：故・二代目正楽の次男
切りながらの喋りも堂に入ったもの。本業の紙切りのほうも見事でした。
小南治 ：故・二代目正楽の長男
小さい頃は紙切りの修行もしたらしい。だからこそ、兄弟で紙切りのコラボが出来る。
「父からは、紙切りの芸はすっかり弟の二楽が継ぎました、私のほうは財産を継ぎました」大爆笑だった。
落語のほうはちょっと癖がある。竹さん、熊さんのそれぞれオーバーな表情がくどいような気がする。

芳澤寄席について・・・
開演時間はいいとして、終演が早過ぎ。7時30分には終わってしまった。
内容の濃い1時間だけど、なんとか2時間は楽しみたい。
せめて小南治には二席口演して欲しかったな。
ま、尻が痛かったのでちょうどよかったかも・・・あ、主催者はだからあんな小さい椅子を用意したのか（笑）
終演後、JRの市川駅まで20分歩き、南口の「藤」で一人酒盛り。
バスで9時には帰宅。歩いて笑って、健康的な1日でした。

第110回
平成22年11月18日（木）　18時30分開演
「古今亭志ん輔の会」国立演芸場
入場料　2700円

お馴染み古今亭志ん輔の独演会、ここのところ一番聞いている噺家かもしれない。郵便で案内を貰えるので、切符の入手も容易だ。もうひとつ、この会に行きやすくなったのは、国立演芸場の駐車場の存在を知ったこと。台数も多いし、500円というのは嬉しい。往復の交通費を考えても安いし、なにより電車で行くには不便な地だったから、その面倒さが解消したのは間違いない。知り合いに会っても飲みに行けないけどね。
今回も中学の同級生とバッタリ会った。かつて「志ん輔はいいよ」と私が教えたのだ。その前には「さん喬、いいよ」とも教えた。そうだ、30年前だが初めて落語会に連れ出したのが私だったかもしれない。
私が「落語好き」にした第1号か。次回は事前に連絡して、四谷あたりで落語談議をすることにしよう。

開口一番

「元犬」

古今亭　半　輔

全身が白い犬、神社に願掛けして見事人間に生まれ変わった。とはいっても、しぐさは犬のまま。口入屋は変わり者を雇いたいという隠居の家を紹介し、働きだすが、何をやってもおかしい。隠居も呆れはて女中の「おもと」を呼ぶ。
「おい、おもと！　もとは居ぬか」
「はい、元は犬でございます」

落語

「鮑のし」

春雨や　雷　太

腹が空いた甚兵衛だが家には米も金もない。女房が知恵を出して、「近所で五十銭を借り、御かしら付きの魚を買って大家へ届けると御礼に1円くれる筈だから、五十銭はすぐに返して、残った五十銭で米を買える」と言う。大家の家では婚礼なのである。
近所の山田さんに借りようとすると初めは断られるが、女房が知ってのことと言うとすんなり貸してくれた。魚屋へ行くと、 五十銭では鯛が買えず、鮑を買って大家へ届けた。すると大家は「鮑は『磯の鮑の片思い』と言って不吉だ」と突っ返す。帰り道、それを聞いた棟梁がさらに甚兵衛に知恵をつけて、大家をギャフンと言わせる。

落語

「二番煎じ」
　　　
古今亭　志ん輔

旦那衆が暮れの寒い晩に町内を「火の用心」の為に巡回する。一回りして番小屋で暖をとっていると、酒を持って来た人、猪鍋の具を持って来た人がいて、いつの間にか酒宴になり、果ては都都逸まで唄いだす。
そこへ見回りの武士が来た。ヤカンに入った酒や鍋が見つかり、恐る恐る「風邪の煎じ薬に口直しです」と差し出す。武士は「拙者も風邪気味なので・・・」と言って、酒を全部飲んでしまう。さらに「代わり」はないかと言う。もう有りません、と断ると「拙者、もう一回りする間に二番を煎じておけ！」

太神楽

翁家和楽社中

落語

「火事息子」

古今亭　志ん輔

半輔：名前からすると志ん輔の弟子でしょう。声も大きくまあまあでしょう。
雷太 ：以前にもこの会で助演している。二つ目に昇進したばかりらしい。弱弱しそうな顔をしていて、与太郎ものに向いてるかも。

「二番煎じ」この時期ならではの噺だ。旦那衆が夜回りする間のやりとりも楽しいが、番小屋での酒宴がまた面白い。江戸情緒溢れた噺だ。

「火事息子」高座にかかるのは珍しい噺ではないだろうか。私は圓生のＣＤで聞いたことがある。親子の情愛を描いて涙を誘う佳作だと思う。演者の年代としては60代以上でないと無理では・・・と思っていたが、志ん輔はよかった。前半、ついつい圓生と比べてちょっと引いていたが、芳三郎が旦那（父親）の前でもじもじしていると、旦那が「もっとこっちへ来なさい、バカヤロー」の。一喝に会場中が引きしまった。遠くに見えた志ん輔がいきなり舞台から浮いて、目の前に来たような、そんな錯覚を起こした。そのあとは引きこまれて、うっすら涙・・・。45分にわたる熱演、非常にいい出来だった。

第111回
平成22年12月15日（水）　18時30分開演
「日本橋夜ののひとり噺　柳家権太楼の会」お江戸日本橋亭
入場料　2300円

月刊「かわらばん」12月号が届いたのが11月25日、それから申し込んで予約出来たのはラッキーだった。「五・十日」（ごとうび）だから穴場だったのかな・・・
権太楼は久しぶりだ。年末のあわただしいなか、爆笑してこよう。

開口一番

「狸賽」

入船亭　辰じん

子どもにいじめられていた狸を助けてあげると、夜になって狸が恩返しにやってきた。何にでも化けられると言うので、5円札に化けてもらい、支払い先へ払った。
「おっと、その紙幣をぐるぐる回しちゃいけないよ、目が回るから。それから、小さく畳まないでおくれ、背骨が折れるといけねえ」
しばらくして狸が戻ってきた。
「親方が変なこと言うからよ〜く見られて、しまいに四つに畳んで財布に入れられました。あまり苦しいんで財布を食いちぎって逃げてきました。その時に、脇に五円札が3枚あったので、くわえて持ってきました」

落語

「反対車」

柳家　ほたる

上野駅までと人力車に乗ったが、車夫が病み上がりで速く走れない。乗り換えて威勢のいい車に乗って「万世橋を通って北へまっすぐ行ってくれ」と頼むと、今度の車夫は速い。転がってるドラム菅も飛び越えてしまう。土手に突き当たって、ようやく止まると、そこは東北の仙台だった。今度は戻ってもらい、ようやく上野駅に着いた。
「お客さん、これからどこへ行くんですか？」
「汽車で仙台まで」

落語

「唐茄子屋政談」

柳家　権太楼

道楽者の若旦那、ついに勘当されて路頭に迷い吾妻橋から身投げを図る。通りかかった叔父が、死ぬ気で働くなら協力しようと唐茄子売りを勧める。天秤棒など担いだことのない元若旦那、重さと暑さで売れないまま倒れこむ。往来の人に助けられ唐茄子まで売りさばいてもらう。殆ど売りつくしたころ、弁当を広げようとある長屋の軒先を借りると、貧しい母子に出会ってしまう。お弁当も子どもにあげ、売上金もその母に与えてしまう。帰ってきた若旦那に、叔父さんは売上を見せろと言う。若旦那は仔細を話して、その長屋まで案内する。すると長屋の様子がおかしい。先の母親は恵んでもらったお金を大家に溜まった店賃にとられてしまい、自殺を図ったという。若旦那、長屋の大家に怒鳴り込み、殴ってしまう。長屋の連中も拍手喝采の大騒ぎ。これが奉行の耳に入ることになり、人情なしの大家はお叱りを受け、唐茄子屋は人助けしたと褒美をもらい、のちに勘当も許される。

お楽しみトーク

主催者VS権太楼

落語

「抜け雀」

柳家　権太楼

辰じん：扇辰の弟子で前座。声もいい（好きだなあ、この声）、顔もいい、久しぶりに上手い前座だ。楽しみである。辰じんを聴くために扇辰の会も行きたくなった。
ほたる ：権太楼の入門時のだから、弟子なんでしょう。二つ目らしいが、イマイチ。いや、イマニか。

権太楼： 高座の第一声から、元気がないなあと感じた。顔も老けたような・・・そうか、しばらく聞いてないし、と思ったら、病み上がりだった。「トーク」の時に詳述していたが、肝臓、腎臓､膀胱が悪く入院していたらしい。医師からは2ケ月程度安静にするよう言われたようだ。年内の独演会と初席だけは出演して、再入院する予定だとか。
そんな体調のなか、いきなり大ネタの「唐茄子屋政談」で、どこかで切るかと思ったら、最後の裁きまで演じた。話し始めたら止められなくてね、と本人も吐露していた。そもそも、「唐茄子屋政談」の予定ではなかった、とも漏らした。なにがそうさせたのか。
「いつドクターストップが掛るか判らないので、大ネタをやっておこう」と咄嗟に考えたのか、まさかね。後半にはいってとりつかれたような熱演、思わず知らず頬を濡らしてしまった。

トリに何を演じるか、会場中が気にしてた筈だ。「抜け雀」と判り、うん、これならちょうどいい、と胸をなでおろした。
権太楼の目尻を下げた笑顔、なんとも言えずいい。カワイイ、と言っては失礼か。

「唐茄子屋政談」よく口演される人情ものだが、権太楼は『勘当』について説明していた。ただ家を出るだけではなく人別帳から消されることだと。だからこそ、勘当が解かれるには「裁き」が必要なのだと。（戸籍から消したり、再入籍するということ）
ということは、勘当されるほどの道楽とはとてつもないことだし、普通なら勘当が解かれるということもない訳だ。このへんを聞いてから噺を聴いたせいか、「唐茄子屋政談」に持っていた違和感が払拭された。病気をおしての熱演の賜だろう。

第112回
平成22年12月17日（金）　19時開演
「第55回・鳥越落語会」浅草橋区民会館4Ｆホール
入場料　2000円（当日のみ）

年に4回ほどの公演、毎度「喜多八」が二席口演している。今回は55回記念で、ゲストは一朝である。
年齢的には同じくらいか、芸歴は一朝師のほうが少し古いか・・・とにかく大物ゲストということになるのだろう。

開口一番

「一目上がり」

春風亭　昇　吉

熊が隠居の家で掛け軸を見る。なにやら言葉が書いてあるが、「讃」であると教えられる。よそへ行って掛け軸を「いい讃ですね」と褒めると、「これは詩だ」と言われる。次の家では「これはいい詩ですね」と褒めると、「これは一休禅師の悟だ」と言われる。
今度は先回りして「これは結構な『ろく』ですね」と褒めると、「これは七福神（の絵）だ」と言われる。次の家では「これは結構な『はち』ですね」と褒めると、「これは芭蕉の『句』だ」と言われる。

落語

「首提灯」

柳家　喜多八

酒に酔った江戸っ子、いい気分で品川に女郎買いに向かう。途中、田舎侍に声を掛けられ、道を尋ねられる。田舎侍を馬鹿にした江戸っ子はさんざんに悪態をつく。遂に侍は一閃、刀を抜いて去った。
肝を冷やした江戸っ子、歩きだすと首が回り始める。戻しても戻しても回ってしまう。仕舞にはすとんと落としそうになる。
そこへ火事が起こり、野次馬が走ってきてぶつかる。
首を落としては大変だと、自らひょいとはずして、提灯代わりに前に差し出し「はい、ごめんよ、はい、ごめんよ」

落語

「天災」

春風亭　一　朝

長屋の乱暴者の八五郎、女房と母宛てに離縁状を二本書いてくれ、と大家を尋ねてきた。大家は、まずは神学の先生の話を聞いてからにしろ、と先生を紹介する。先生は八五郎に「何事も天災と思って諦めなさい」と諭す。すっかり神学が気に入った八五郎が長屋へ帰ると、隣の熊五郎の家でゴタゴタがあったと知る。追い出した女房のあとに、すぐに次の女を入れたことから、前の女房が戻ってきて騒いだらしい。
八「これ熊、これも天災と思って、諦めなさい」
熊「何言ってやがんだ。うちは先妻で揉めてるんだ」

落語

「うどん屋」

柳家　喜多八

昇吉：名前からすると「昇太」の弟子か。入門4年目の23歳、どうも来年に二つ目になるらしい。開演前に主催者からのプレゼントの品を配るために客席とジャンケンをしたが、その進行は実に生真面目で面白味がなかったが、噺のほうは上手かった。顔も可愛いし、噺になると声も大きくていい声だった。女性ファンがつきそう。
一朝 ：昭和50年代の上野本牧亭「花形落語会」を思い出すなあ。さん喬・雲助・志ん太（現・志ん橋）・談生（現・馬桜）・小里ん、そして一朝という今にして思えば凄く贅沢な顔ぶれだった。全員がもうすぐ「真打ち」という状況だった。一朝師はかすれた声に味があった。弟子に柳朝、一之輔などがいて、正統の落語を継承している。ＮＨＫ「龍馬伝」では『江戸弁指導』としても活躍した。
本席では喜多八をたてて、「天災」で軽く流したが、安心して聞いていられる。当たり前か。
喜多八：高座から降りると意外や小柄な人だと気づく。高座で大きく見えるということは、いいことだろう。
「首提灯」では江戸っ子の威勢のいい啖呵がウリだが、ちょっと上品だった。学習院卒という学歴が災いしたか。しかし、首を切られたあと首が回るところ、特に落ちそうになった首を拾い上げる仕草は秀逸だった。私が今までに聴いた「首提灯」は圓生・談志という名人のものだ。その記憶に匹敵する出来だった。
二席目の「うどん屋」は柳派の得意ネタ、まして先代・小さんの十八番だ。酔っ払いがしつこい程同じ話を繰り返し、徐々にうどん屋が呆れてくる。酔客を客から見て、「嫌な奴」と思わせずに演じられたら素晴らしい。うどんの食べ方は微に入り際に入り上手いね。思わず客席から腹の虫がグーッと鳴った。これ、本当の話。私を含めて3人はいたな。
「鳥越落語会」この会は4度目くらいだろうか。個人が主催しているようだ。ホールは2,3年前に改装されてちょうどいい大きさになった。（120席ほど）
19時開演はちょいと遅い気もするが、今夜はきっちり21時に終演となり、これなら安心して「もう一軒」行ける。
入場料も当日のみで2000円と良心的だ。喜多八がレギュラーなのに、立ち見が出ないのは、なんでだ？
うまく出来てるな、と妙に感心してしまう。

第113回
平成22年12月19日（日）　18時50分開演
「第25回特撰落語会　さん喬・雲助二人会Voｌ.3」深川江戸資料館小劇場
入場料　3000円（前売り）

この会の存在は2ケ月前に知ったが、生憎『マラソン仲間の忘年会』と、かちあっていたため申し込まずにいた。ところが「かわらばん12月号」（11月25日配達）にも『完売』の文字がない。下町の名人二人が揃うってのに、日曜の夜だからな・・・。ここは一人のファンとして駆けつけなくては。少々赤い顔して、忘年会を途中で抜けて、会場へ回った。

開口一番

「転失気」

三遊亭　ありがとう

医者から「てんしきはあるか？」と訊かれた和尚、その意味が判らない。小僧の珍念に「向かいの花屋で『てんしき』を借りてこい」と言う。珍念は早速借りに行くが、花屋では意味が判らず「さっきまであったんだが・・・今朝の味噌汁の具にして食べた」と言う。
珍念は薬を貰いに医者を訪ね「てんしき」の意味も尋ねる。なんと「おなら」のことだと言う。
和尚も知らないのだと気づき、珍念は和尚に「てんしき、とは盃のことだ」と嘘を言う。
翌日、医者が往診にきた。和尚は「昨日は『てんしき』がない、と答えましたが、探したらありました。今、お目にかけましょう」

落語

「短命」

柳家　小んぶ

隠居に八が悔やみの言葉を教わりに来る。また伊勢屋の旦那が死んだという。聞くと美人のお嬢さんのところに美男の婿が来て、これで三人目だという。八はなぜこんなに死ぬのか不思議がる。隠居は「お嬢さんは美人なんだろ。旦那だって店に出なくともいいんだろ。二人で奥の部屋で顔を見合わせている。誰が訪ねてくる心配もない。な、こりゃ短命だ。」八は意味がわからない。隠居は「例えば茶碗にご飯をよそって手渡す。手の先の指が触れるだろ。思わず旦那は顔を見上げる。ふるいつきたくなる器量よしだ。奥の一室、誰も訪ねて来ない。ほら、短命だ。」
ようやく理解した八五郎、通夜に行く前に家に戻って腹ごしらえをする。照れる女房に無理矢理給仕して貰ってご飯茶碗を受け取る。指が触れる。思わず顔を見上げて「あ〜〜俺は長命だ！」

落語

「冨久」

五街道　雲　助

酒癖が悪く、客をしくじってばかりの幇間の久蔵。たまたま町で会ったかつての旦那が冨くじを売っていたので1枚買い、大神宮に納めて当たれと願う。その夜、大旦那のいる芝方面に火事があり、寒いところを駆けていく。浅草から芝まで見舞いに駆けてきた久蔵を見て、大旦那は出入りを許す。近所の人が火事見舞いに続々と来るので、記帳を久蔵にさせる。出入りが叶ったことが他の店にも知らせることにもなるという旦那の計らいだ。一段落して火事見舞いの品に燗のついた酒があり、久蔵は「せっかく燗をつけてくれたものを・・・」と再三、食指を伸ばす。番頭は気持ちを察して奥で飲んでいいという。すると、今度は浅草方面で火事が起こる。久蔵は慌てて駆け戻るが自分の長屋が火元で全焼してしまった。家をなくした久蔵、芝の大旦那のところで居候していたが窮屈なものだ。外出すると富くじで賑わう神社があった。なんと千両の一番冨が当たったが、冨札は焼けてしまったので貰うことが出来ない。ふらふらしている久蔵を見つけて鳶の頭が「おい、お前の布団やら持ち出しておいたぞ。それから大神宮もな」
狂喜の久蔵、頭にくらいつく。頭も事情を聞いて「良かったじゃねえか。どうする千両？」
久蔵「大神宮さまのおかげ。町内にお祓い（お払い）に回ります」

落語

「掛け取り」

柳家　さん喬

ありがとう：なんとふざけた名前だろう。歌之助の弟子らしい。初めてかと思ったら、昨年「三桂落語会」の志ん輔の助演で聴いていた。（その時は、『まだまだだ』とコメントしている）
名前のおふざけとちがって、噺は上手かった。一年で進歩した、ってことか？
小んぶ ：大きな体、マクラが下手。普通の人が喋ってる感じ。本題にはいると・・・「最近、二つ目になった」なるほど、そんな感じ。
雲助：私は主催者じゃないし、この顔合わせで3回目らしいので前回がどうかは知らないが・・・深川は今や「さん喬」の地元、ということで、雲助が中入り前なのかな。
「冨久」をじっくり演じた。久蔵が火事見舞いに飛び込んで、詫びが叶い、火事見舞いの客の名前を帳面に付けるのだが、それを店先でやることで、出入りの商店にも『久蔵が出入りが叶ったことが知れるように』という旦那の心遣いがうれしい。酒を飲みたい久蔵の心理が目の動きで伝わる。後方に空席が目立ったが、意に関せず、きっちり45分の長講だった。
さん喬：「片棒」に似ている、と感じるのは私だけだろうか。「片棒」の次男のはちゃめちゃぶり、「掛け取り」での喧嘩好きの相手をする件、さん喬の威勢のいい啖呵がいい。品が悪くならずに演じられる噺家は意外に少ない。自称・町の洋食屋の倅であるさん喬、よくぞここまで大物になったものと感心する。義太夫の語りも、芝居のせりふも、いかにもそれらしくて楽しい。8時40分に高座に登場して、長講50分、9時30分終演、今夜はおとなしく帰ります。忘年会を抜けて来た甲斐がありました。
「冨久」：暮にぴったりの名作。八代目・文楽の「さい、さいこらさ」という息づかいがなんとも懐かしい。可愛いとさえ感じる。この場面、文楽と比較しては酷だろう。
大旦那の描き方がいい。優しい旦那であることが、よく判る。久蔵の酒も憎めない程度に描いている。
文楽では「鳥越・安倍川町」だったが、雲助は「浅草・三軒町」だった。どちらにしても、芝までは7ｋｍくらいある。真冬の深夜、久蔵はさぞ寒かったことだろう。

こんな下町の生んだ名人二人を登場させておいて、満席に出来ないとは情けない。
主催者に『喝』だ。
二人とも空席のある会場での落語会は、このところ経験ないのでは・・・
私の恥ずべきあの企画を思い出した。15年前、まさにこの二人に出演願って500人のホールで落語会を開いた。母体は異業種交流会のイベントだったが、明らかに私が主宰。自由席500枚を売ったものの、入場は250人程度、「がらがら」だった。赤字にはならなかったが、出演者には本当に申し訳なかった。
あれ以来、落語会を主催することに二の足を踏んでいるのである。

第114回
平成22年12月29日（水）　17時30分開演
「さん喬・権太楼二人会」新宿 末廣亭
入場料　3500円

年末恒例のこの二人会、数年前からチケットの入手が非常に難しくなった。最後に行ったのは何年前だろうか？　ひょっとすると、立ち見で聴いていたところを携帯で呼び出されて、友人の急死を知らされ会場を退出した平成14年以来かも・・・
今回、予約開始日に電話するも繋がらず予約席（1階の椅子席と桟敷席）は買えず、当日のみの2階席に行ってみることにした。最悪、立ち見も覚悟で。
午後4時30分に会場へ着いたが、すでに長蛇の列。末広亭から左へ伸びて角を曲がるあたりまで並んでいた。午後5時に開場、さてどうなることかと2階へ上がると、ほぼ真ん中に席を占めることが出来た。2階席は初めてだったが、なんとも趣のある席だった。靴を脱ぎビニール袋に入れて各自持参。前の4列程は桟敷席、後方の5列程は椅子席で2階だけで100人くらいの収容。私は桟敷の一番後方だが、思いのほかゆったりとしたスペースなので靴、オーバー、バッグを置く余裕もある。
負け惜しみでなく、毎回2階でもいいと思った。

さて、さん喬と権太楼の各二席を楽しみますか。

開口一番

「金明竹」

柳家　さん市

骨董屋の主人の留守に関西弁の客が来て、早口でまくしたてる。留守番の小僧は何度聴いても意味が判らない。女将さんに代わって貰うがやはり何度聴いても判らない。客が呆れて帰ったあと、戻った主人に女将さんは伝言を伝えるが・・・

落語

「初天神」

柳家　小んぶ

初天神のお参りに行く親父は、何もおねだりしないという条件で息子の金坊を連れて行く。それでも露店が並ぶ前を通ると、金坊は大きな声で駄々をこねる。仕方なく団子を買ってやるが、蜜が垂れて服を汚してはいけないと親父がみんな嘗めてしまう。蜜がなきゃ嫌だと金坊が言うので、親父は店主のスキを窺って、蜜の壺にチャポンと二度漬けしてしまう。

落語

「のめる（二人癖）」

柳家　小権太

落語

「中村仲蔵」

柳家　さん喬

落語

「井戸の茶碗」

柳家　権太楼

曲ごま

三増　紋之助

座談

さん喬・権太楼

当日のパンフレットに印刷された演目がなんと昨年と同じだった、と判明したので、昨年さん喬が口演した「文七元結」（この日も口演予定）を急きょリレー落語で二人で口演することになった。

恐らく病み上がり（しかも初席後に再入院予定）の権太楼の体力を考慮して二席目を辞めて、こういう趣向にしたのだと思われる。一席減るのは喜べないが「リレー落語」というのは興味が湧く。
私の持ってるCDで志ん生・金馬の「三軒長屋」は秀逸だ。

リレー落語

「文七元結」

前半：さん喬

後半：権太楼

左官屋の長兵衛は酒を飲んでは女房に悪態をつき借金まで増えてきた。見かねた娘は吉原の「佐野鎚（さのづち）」へ自身をカタに借金をして、父に小言を言ってくれと頼む。女将は「この五十両でまづ借金を返してから、働いて私に返すんだよ。娘は今年の大晦日までは店には出さないから（女郎にはしないから）真面目に働きなよ」と説教する。長兵衛は佐野鎚の女将に諭され、「働いてこの金はすぐ返す」と約束する。吾妻橋に差し掛かると商人の手代（文七）が今にも身を投げようとしている。聞けば集金した五十両を掏られてしまったという。そんなことで死ぬなと諭すが文七は尚もすきを見て身投げしようとする。死んでお詫びするという文七に長兵衛は五十両を投げつけるように渡して去る。（ここまで、さん喬）

長兵衛は家に戻っていきさつを話しても女房は信じることができない。「娘を売ったお金を、見ず知らずの男にやる訳ないだろう。その相手はどこの店の手代なんだい」と一晩中言い争いとなる。
いっぽう文七は遅くなって店に戻り、五十両を差し出すと主人はびっくりする。
「先様から忘れ物だと五十両が届いている。これはどうしたのだ」ここで文七は一部始終を主人に語る。聞き終えた主人は翌日、文七を連れて長兵衛の長屋を訪ねる。まだ夫婦で言い争いをしている。主人が説明しても長兵衛は「一度出たものは受け取れない」と五十両を受け取らない。後ろから女房が手を出して、受け取って落ち着いた。
そこへ主人の手回しよく佐野鎚から娘を身受けして輿に載せて来た。これをご縁に文七と娘は祝言をあげ、のちに「元結」を商売として繁盛したという。

さん市：さん喬の十一番目の弟子。まあまあ上手い。
小んぶ ：さん喬の弟子、二つ目になったばかり。体が大きいせいか、顔のせいか、あまり落語向きではないような・・・
「中村仲蔵」：内容が忠臣蔵なので暮に合う噺で、中堅以上の噺家がよく口演する。さん喬は仲蔵が名代になるまでのエピソードとして名優・団十郎に見込まれた話を加えた。座長に呼ばれた時、その場に団十郎も同席させていたのが印象的だった。
「井戸の茶碗」：権太楼で以前にも聴いているが、一層くだけた口調になっていた。正直者の清兵衛がこれでは軽すぎるのではないか。くだけるのも、ここらが限界ではないか。
「文七元結」：この名作の聴かせどころは、後半だろうが、私は敢えて、長兵衛が佐野槌を訪ねて女将に諭される場面が好きだ。娘のいじらしさ、女将の心底から心配する気持ち、そして長兵衛がようやく事の重大さに気づいて改心するくだり。この深刻な場面があるから、長兵衛と女房のやり取りが際立って面白くなる。
このリレー落語、前半がさん喬、後半が権太楼で本当に良かった。
（前後半の振り分けは座談の中でジャンケンで決めたもの）